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秋の講演会 2021年10月30日(土) レポート

  • 開催日
    2021/10/30
講演題目:「新時代をひらく鉄鋼技術」
講演要旨:
地球は鉄の惑星。地球の質量の1/3は鉄であり、有史以来、人類は鉄を上手に
利用してきた。地震や異常気象など災害の予防や復興に、鉄鋼材料は不可欠な
存在である。エコカーの普及にとっても鉄鋼材料は重要な役割を担っている。
車体の軽量化を実現する超ハイテン材料、モータの小型化を実現する高性能な
電磁鋼板など鉄鋼材料は進化を続ける。製鉄プロセスでのカーボンニュートラ
ルを目指し超革新技術へ挑戦している。
 
講演者 :
 JFEスチール株式会社 監査役 曽谷保博 氏

ご略歴:
1980 機物卒、82機物修了
1982 日本鋼管(現JFEスチール)入社、主に圧延の技術開発に従事
1989 米国ペンシルベニア大学留学
1996 工学博士(東工大)
2011 常務執行役員、2014 専務執行役員
2018 代表取締役副社長
2020 監査役 現在に至る


1.JFEスチールについて

純粋持ち株会社であるJFEホールディング(売上高約4兆円)の売り上げの約
7割を占める事業会社であり従業員数約46千人。「常に世界最高の技術を持っ
て社会に貢献します」という企業理念があり、技術者にとっては働きやすい
会社。全国に6製鉄所・製造所と6っの研究拠点を持つ。


2.鉄鋼材料の特徴
・スカイツリーは鉄の総使用量38,500tonの内、JEF鋼材が54%を占める。
 東京タワーが鉄鋼材料を手間のかかるリベットで接合していたのに対し、
 スカイツリーはオール溶接構造でできるようになった。風に耐える必要の
 ある一番上のゲイン塔と脚部に最高強度の鉄鋼材料を使用している。
・2016年大地震により崩壊した熊本城の大天守は鉄骨で復旧、世界最先端の
 溶接技術J-STARを適用し2019年には完成。
・浜岡原発の防潮堤は高さ22m、全長2.4kmの巨大な鉄骨建造物。
・災害発生時の対策として、鉄骨による橋梁の短期建設、鉄骨による砂防堰
 堤での土石流抑制、地すべり発生地でのメタルロードによる早期復旧等に
 も利用。
・高強度鋼(SS440)を使用したボックス柱は、広大なエントランスを持つ
 高層ビルで適用。

・鉄は最も安定し、宇宙に特異的に多く存在する。地球は1/3が鉄からなる
 鉄の惑星。
・宇宙における鉄の存在確率は異常に高い。更に鉄の1核子あたりの結合エ
 ネルギーは一番低い。このため物質が核分裂と核融合を繰り返すといずれは
 鉄に落ち着くとも言われており、とても安定した金属元素。



















・主要金属資源の97%は鉄であり、鉄鉱石は1,000年を超える可採量。
・強度も飛躍的に向上し、鉄鋼材料の強度は3,000~4,000MPaまで製造可能。
・超ハイテン材の比強度(密度と降伏強度の比)はチタン、アルミと同等。
・kgあたりの鉄鋼製品の価格は米の1/10以下であり、水よりも安価。
・スチール缶のリサイクル率は95%近い。
・鋼の特性は組織によって変化する(フェライト、パーライト、ベイナイト、
 マルテンサイト)。鋼を急速に冷却すると発現するいわゆる「焼き入れ」
 組織は硬質で工業的に極めて重要。コストを含め、合金を入れなくとも冷却
 速度の調整で各種強度の鋼を作り出している。























3.鉄鋼業を取り巻く環境

・2000年以降、中国の鉄の生産量が急増し、現在は世界粗鋼生産の約55%
 を中国が製造。
・国民一人当たりの鉄鋼蓄積量が10tになると先進国。今後中国、インドで
 10tを目標に増加。
・世界がSDGsを目指すとして各国民一人当たりの鉄鋼蓄積量を10tにして
 いく場合、スクラップのみでは増大する鉄鋼需要を補えず、天然資源ルー
 トでの鉄鋼生産(高炉法主体)は21世紀末でも現状レベルの12億トン/年
 の生産が必要となると予想される。これをカーボンニュートラルで対応す
 ることが高炉メーカの使命となる。




4.鉄鋼製品の製造方法

・鉄鋼の製造は鉄鉱石を石炭(コークス)で還元する製銑、不純物を除去し、
 炭素の比率を0.02~2%に調整する製鋼、形状を厚板、薄板コイル、形鋼等
 にして特性を造り込む圧延プロセスからなる。
・エコプロセス、エコプロダクト、エコソリューションと革新技術開発を
 2030年以降の長期温暖化対策においても基本とする。
・パリ協定に基づく長期目標に向け、現在の製鉄技術を超える水素還元製鉄、
 CCS、CCU等の超革新的技術開発が必要となる。


5.エコプロセス
・世界最高水準の省エネルギーと高品質の両立。
・製銑プロセスにおけるCO2削減技術として高炉への廃プラスチック・都市
 ガス吹込みやフェロコークス製造プロセスの開発。
・総合的に約30%のCO2を削減可能とする革新的製鉄プロセスの技術開発
 (COURSE50)
・冷却条件を制御し様々なミクロ組織を造り込む制御圧延技術(熱延ライン
 アウト冷却、CCT-連続冷却変態曲線)
・厚鋼板で世界で初めて急速・均一冷却技術(Super-OLAC)を実現。
 これは精密な熱履歴制御であり、大量の鋼材のミクロ組織を造り込む現代
 の匠の技。


6.エコプロダクツ
・低炭素社会の構築に不可欠な高機能鋼材の供給を通じてCO2排出削減。
・ミクロ組織を複合組織に制御して大地震がきても耐えられる鉄鋼材料で
 あり、都心の多数の大型案件で使用された⇒高耐震性高強度鋼HBL385
 (低YR:降伏比低い)
・LCA(Life Cycle Assessment)で比較すると鉄はアルミ(11.2~12.6)、
 マグネシウム(18~45)、カーボン(21~23)と比較して素材製造時の排
 出CO2量が低く(2.0~2.5)、環境に優しい。
・車体の骨格・補強部品を中心に材料強度が従来の2倍以上となる超ハイ
 テン化が進行し、軽量化することでCO2の削減効果もある。
・車両の外板パネル用BHハイテンは、プレス成形時の強度は」従来と同等
 でありながら、加工・塗装工程の歪と熱を利用して部品になった時点では
 高強度化する。
・冷間プレス用途で世界最高強度の1.5GPa級冷延ハイテンを新開発・実用
 化し車体の軽量化、CO2削減に貢献している。
・従来の1/10以下の超微細析出物を制御したNANOハイテンは車両のサス
 ペンション・ロア・アームに適用され、自動車の軽量化に貢献。


7.エコソリューション
・日本の持つ世界最高水準の省エネ技術を途上国を中心に他国へ移転・普及
 させることで地球規模で貢献が可能になる。


8.カーボンニュートラル
・2050年カーボンニュートラルに向け、カーボンリサイクル高炉+CCU連
 携と水素製鉄(直接還元)の開発・実用化。
・カーボンリサイクル高炉では高炉から発生するCO2をメタンに変換し、
 還元材として繰り返し利用。一方、還元材の一部をコークスからカーボン
 ニュートラルメタンに変換し、CO2排出量を削減。
・電気炉技術の最大活用


参考)関連図書の紹介
  圧延、ものづくり、鉄づくりを分かり易く解説。















発行所:日刊工業新聞社
価格:\1,500円
URL http://pub.nikkan.co.jp/books/detail/00002959

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