くれない工業会(東工大女性卒業生・東工大女子学生の会)

平成27年度第二回スタディツアー JAXA訪問
2015.9.30

今回訪問したのはJAXAにご勤務の上田陽子さんです!
同じく東工大ご卒業生の中谷幸司さん、東大で博士を取得された仁田工美さんも
インタビューに応じてくださいました!



日時: 2015年9月30日(水) 13時半~16時半
実施地: 茨城県つくば市 千現2-1-1 つくば宇宙センター
受入担当:衛星利用運用センター 上田 陽子 様
     ジオスペース探査衛星プロジェクトチーム 仁田工美 様
     イプシロンロケットプロジェクトチーム 中谷幸司 様
参加人数:東工大女子学生16名


 ご挨拶ならびに自己紹介.上田さんの経歴,お仕事のご紹介,質疑応答.
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 職場の見学
  総開棟1Fロビー・衛星データの受信・運用を行っている部屋・広報用の施設(スペースドーム)
  総開棟8Fの上田さんのデスク・サーバが置いてある部屋のご紹介(写真にて)
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 見学を踏まえ質疑応答ならびにテクノガールズからインタビュー.
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 記念撮影,解散.




Q  仕事のやりがいやJAXAならではだと思うことを教えてください

上田さん(以下、上田):私の場合、衛星から観測したデータの利用を促進する部門なので、そのデータを研究者の方が使って地球の環境で二酸化炭素がこれ
だけ増えていることが分かりましたとか、そういう成果を研究者さんが出してくれるとありがたいと思います。また、業務を進める上でデータを利用する人や
衛星を作る人など色々な人と調整をするので、自分の担当分野とは違う世界を知ることができるというところが私としてはJAXAならではのいいところだと思い
ます。
中谷さん(以下、中谷):私はプロジェクトチームに所属して衛星やロケットを開発している期間が長いのですが、一言で開発といっても色々な作業があります。
ロケットや衛星といった機体そのものだけでなく、地上設備等を整備やそれらを統合するシステムの開発などもあります。幅広い視点で開発に関与できるのが
JAXAだと思います。だからJAXAのいいところっていうのは、上田さんもおっしゃったように、ものだけじゃなくてその周辺の全体まで関われるっていうのが
一番だと思います。結局一人では何もできなくて、開発の現場だと色んな人と協力しながら一つのものを作り上げていくことになるのですが、そういったものが
出来上がって、打ちあがってうまく動いた瞬間にやりがいを感じています。
仁田さん(以下、仁田):私は研究部門にいたのですが、今は衛星の開発に携わっているので、まさに今中谷さんがおっしゃったような醍醐味は勿論ありますね。
あと私自身が中途採用でJAXAに入っているのでメーカーを経験している立場からすると、もっとお役所的で好きなことができないと思っていたのですが、思った
よりは割と手を挙げた者勝ちみたいなところがあって、私も衛星のシステム開発をしつつ、自分の研究もちょっとしています。その辺の自由度は思ったより
あって、そこはよかったなと思います。
 
Q JAXAを選んだ理由を教えてください


上田:私はちょうど大学の研究室で合成開口レーダの画像処理をやっていて、JAXAの業務に合成開口レーダのセンサーを載せた衛星関係のものがあったので、
ここなら何か役に立てるかもしれないと思って、とりあえず履歴書をエントリーしてみました。そのあとJAXAの人事部の方が、開発メーカーや解析業者など
色々紹介してくださって、色んな会社を回って最終的にJAXAに落ち着きました。当時ちょうどJAXAで合成開口レーダに力を入れていたので、タイミングも
あったのかなと思います。
中谷:当時は博士課程卒で正社員という枠がほとんどありませんでした。だからポスドクとして宇宙関係の研究開発に関わる道を探しました。それでJAXAで
ポスドクを2年間やりました。2年目の秋に、ちょうど自分やっていたことが生かせる中途採用の募集がJAXAでありました。当時の中途採用は能力とか専門が
結構限定されて募集がかかるのですが、自分の分野にぴったりだと思って応募しました。とてもタイミングがよかったと思っています。
仁田:私は最初の会社でも学部卒だった事もあって、数学や物理は使わないだろうなと思っていたのですが、計算ばっかりしていました。その後ドクターを
取ったのですが、研究はあんまり向いてないかなと思って、どちらかというとプロジェクトマネジメント系で公務員的なイメージだったJAXAに入りました。
ですがまた研究をすることになって、ベクトル解析とか微積とかびっくりするくらい使っています。
 
Q 実際にJAXAに入ってみて、入る前のイメージと違うところはありましたか?

上田:JAXAは外からのイメージと中で働いている人の実態がちょっと違います。外から見ると宇宙っぽいクリーンルームみたいなところにいて衛星をいじって
いるとか、宇宙飛行士とか、そういうイメージですけど、実際は結構地味でお金の計算とかも結構やります
中谷:私はポスドクの時からJAXAにいたので、雰囲気はわかっていました。そのときに研究よりは実務に行く方が自分には合っていると思ったので、そういう
意味ではポスドクの期間って、自分の適性を判断出来ていい時期だったなと思います。
仁田:私はものづくりやマネージメントをイメージして入ったのに、まさかこんな基礎研究をやらせてもらえるとは思わなかったです。ただ私のもといたところ
は凄く特殊で、だいたいマネージメント系の人が多い印象です。
上田:マネージメント系になると本当に技術的なことはしなくなります。私はプログラミングはしないですし、基本的にはPowerPointかWordかExcel、あと
メールぐらいしか使わないです。パワーポイントエンジニアリングといって、こういう計画でこのくらいの予算でこれくらいの成果を出しますというのを、
関係する様々な分野の人に分かりやすく説明する仕事の割合が増えていきます。それがやりたければいいですが、もうちょっと自分の専門分野を活かしたい
のであれば、研究部門の方がいい
かもしれないですね。
 
Q 1日の流れを教えてください

上田:基本的には毎朝9時半につくばに来て、メールをチェックして、打ち合わせの予定が入っていたら打ち合わせを行うという一日ですね。打ち合わせでは、
今の進捗状況や、問題があれば処置状況とか今後の対処の方針を話し合います。あとは運用室で衛星のデータに何かおかしいことがあったら確認しに行って
報告したり、開発ものがあるとメーカーさんの事業所まで行って打ち合わせをしたりします。
中谷:私は開発部門なので、週の半分くらいはメーカーの事業所に行くことが多いですね。
仁田:私は今、衛星が相模原で試験を開始しているところで、前はメーカーさんに行くことが週に1回くらいありましたが、最近はテレビ会議が多いですかね。
あとは試験のチェックをする当番みたいなものがあるので、つくばに来たりメーカーさんの工場に行ったりしますけど、デフォルトは上田さんと同じです。
 
Q 勤務時間は決められていますか?

上田:基本的には9:30スタートで17:45に終わります。その後に必要なのであれば残業する感じですね。休日出勤はよほど忙しかったりするとありますが、
プロジェクトにもよりますけど、そんなに頻繁にはないですね。
仁田:私はフレックスタイムを使っています。フレックスタイムは7:00から22:00の間に2時間出れば出勤になります。その1か月の出勤時間の合計と、通常の
出勤日が例えば21日なら7時間30分(9:30~17:45 12:15-13:00休息)を×21した時間が合えば、その日何時間働くかを選べる制度です。でも打合せとか入る
ので、なかなか自由にはならないですね。
 
Q フレックスタイムを使っているのはお子さんがいらっしゃるからですか?

仁田:私は完全にそうです。研究開発部門だと確かフレックスタイムに出来ます。それ以外の部門の人は、子供が小学校3年生までの人はフレックスタイムが
使えます。ここ数年フレックスタイムの適用範囲が広がってきていて上司の許可があれば使えるようになっていると思います。私は入社以来ずっと選択していま
すが、一方それを使わなくてもJAXAは実は時間給があって、病院に行って11時くらいから来るとか、1時間からでも休めます
 
Q 夜勤があると聞きましたが、夜勤は大変ですか?

中谷夜勤でも昼は帰れるので寝られます
仁田:うちだと8時間で組んでいて、つくばにホテルを取っていました。
上田:夜勤の時は宿泊費が出ますね。でもJAXAの職員が夜勤するのって本当に打ちあがった直後くらいで、衛星の運用が安定してきたら外注の業者さんに頼む
ような感じになるので、打ち上げて1か月間とか、割と短期間です。
仁田:うちは夜勤する人を決めるときは、「小さい子いるからできない」、「じゃあ私やります」みたいな感じです。別に強制してやらされているわけじゃ
なくて、できる人の中で組むので、配慮してやらない人も同じプロジェクトの中にたくさんいます。あと夜勤だと手当が出るので、若い子はかえってやりた
がります。
中谷:私も率先してやっていましたよ、「やります!やります!」って。手当というよりは自分が関わったものが打ちあがったら、夜も心配になるのでもう
ちょっと見ていたいなと思います
よ。
 
Q 海外に行かれることは多いですか?


上田:衛星をつくる際に海外のメーカーに部品を発注する時もあって、海外のメーカーと打ち合わせをするために出張に行ったり、テレビ会議をしたりします
私の場合は衛星(GOSAT)のデータを受信する局を海外(北極圏/ノルウェー)に頼んでいるので、そこの業者さんと1年に1、2回顔を合わせて打ち合わせを
しています。
仁田:私のプロジェクトは台湾の機器が載っているので、台湾の人たちとやり取りしています。隣のプロジェクトの彗星探査機は完全にヨーロピアンスペース
エージェンシーの方で打ち上げるので、そこは本当に海外に行きますね。研究部門にいると年に1、 2回海外に発表に行くこともありますね。
上田:観測が始まっている衛星では海外に観測データを売り込みに行くような仕事もあります。学会に参加して衛星データを宣伝する業務もあります。
中谷:JAXAは海外駐在所があるので、数年間海外に滞在する人もいます
上田:あと海外研修の制度もあります。自分自身で研修先と調整して申請する制度になっています。海外の機関や大学などと共同で業務をする機会に自分の学び
たい分野について情報交換して進めるケースが多いみたいです。
仁田:普通の会社だと海外研修に行った人ってそんなにいないですが、JAXAでは結構います。もちろん先ほど言ったようなことをしないといけないですし内部
での選考もあるので、行きたければ行けるというわけではないですが、割とハードルは低いのかも知れません。
 
Q 学部卒、マスター、ドクターはどれくらいいますか?

仁田:技術系はマスターが圧倒的に多いかな。学部卒も0ではないですけど少ないですね。高専卒も毎年一人って決まっている感じですよね。
上田:ある程度専門知識を得たうえでJAXAに来るということでマスターが多い感じですね。途中で海外研修に行って、学部卒の人がマスターを取って来たり、
マスターの人がドクターを取ってきたりすることもあります。マスターの人がもう1回別の専門のマスターを取ることもあります。
 
Q ドクターを持っていてよかった、または持っておけばよかったということはありますか?

上田:私はマスターの段階でもうドクターは無理だと思っていたので、ドクターは持っていないのですが、ドクター出身の人はある技術分野の専門家として、
その分野について技術的に的確なアドバイスができますので、それは凄く尊敬します。
中谷:今やっていることにとって直接役立ったかと言われれば正直なところよくわかりません。プロジェクトの中で持っている人もいますけど、それをみんなが
意識しているかというと、そんなことはないですね。
仁田:私は学部卒で就職しちゃったので逆にコンプレックスが凄くあって、大学に入り直してドクターを取りました。取ってみて、ドクターを取ることは研究する
プロセスの勉強
だなと凄くしみじみと感じました。あとやっぱり海外の人と仕事すると対応が微妙に違う気がします。女性だと軽く見られますが、ドクターを持っ
ていると結構それなりに見られます。例えば学会でただの発表者ではなくてチェアマンになったり、コミッティーのメンバーになったり、そういうオファーが来る
ようになったのは、必ずしもドクターだからということだけではないと思いますけど、0ではないかなと思います。大学に入り直して凄くよかったなとは思います
けど、やっぱりストレートで行った方が楽ですよ。
上田ドクターかマスターか学部卒かは、最初の配属の時にはもちろん結構影響しますが、あとは本人の働きぶりを見て適性が見えてきて、人事異動などに反映
されていき、その人個人のキャリアプランが出来上がっていくので、だんだん関係なくなっていきますね。
 
Q 東工大で学んでJAXAで役立っていることはありますか?


上田:私の場合は具体的に学んだことが直に業務に活かされているかというとそうではないです。ただ東工大ってやっぱり技術を学びたい人たちが凄く集まって
いて、そういう環境は結構稀
です。そこで研究なりを頑張っていく経験がよかったなと、振り返ると思います。そういう経験をした上で社会に出てまた違うこと
をしてみるとよいかと思います。
中谷:私は大学で宇宙関係の研究室に所属して、研究室のみんなで手のひらにのるような小さな人工衛星を作って打ち上げるということをやっていました。
JAXAでは自分が手を動かすことは少なく主にメーカーに発注することが多いのですが、そのときに研究室で体験したモノづくりの経験が生きる場面が多いです。
授業の勉強がどこで役に立ったかというとなかなかはっきり言えませんが、実験装置を作ったりプログラミングしたり、そういったところで身につけたことが
案外社会に出て役に立っている
かなと思います。
上田論文を調べて実験するっていう経験を1回でもやっておくと、他に何か疑問点が出てきたとき同じことができますね。あと東工大にいると理系の知識全般
は学べる
ので、例えば衛星のプロジェクトとか地上のシステム構築とかで、問題を報告されても全く理解できない、ということはないので、そういう知識は役に
立っていますね。
 
Q学部生のとき将来のことをどれくらい考えていましたか?

上田:学部の時はまず研究室をどこにするかが一番で、入ったら1年ですぐ卒論を書かないといけなくて、そっちの方に追われていて、その先の将来設計までは
ちょっと考えられてなかったですね。
中谷:私はずっと宇宙関係の仕事がしたいと思っていて当時人気ある学科に行きたかったので、1年生のときは勉強を一生懸命やっていた気がしますね。そのあと
運よく宇宙関係の研究室に行くことができましたが、その時その時で自分の行きたいところに行けるよう色々もがいていたような気がしますね。
 
Q 最後に東工大生へメッセージをお願いします

上田:学生時代って自由な時間がかなりあって、自分でどこにどれだけ時間を使うか決められる環境にあるので、まず色んなことにチャレンジするのが凄く大事
だと思いますね。人によってそれが勉強だったりバイトだったりサークル活動だったり、なんでもいいと思いますが、自分が打ち込めるものを見つけてやっていく
と、自分の適性みたいなのが見えてくる
、そういう時間があるのが大学時代だと思います。頑張ってください。



上田 陽子さん
衛星利用運用センター
東京工業大学大学院情報理工学研究科修了後,2001年にJAXA入社.
衛星の観測運用,情報システムの整備に関する業務を行っている.

仁田工美さん
ジオスペース探査衛星プロジェクトチーム
1989年3月に日本女子大学家政学部卒業後,東芝に入社.2002年に東芝
を退社し,東京大学工学系研究科の博士課程に進学.2005年5月に工学
博士取得.電気学会の委員や文部科学省の科学技術専門家ネットワーク
専門調査委員など数々の委員を兼任.

中谷幸司さん
イプシロンロケットプロジェクトチーム
2005年に東京工業大学大学院理工学研究科機械宇宙システム専攻博士課程
卒業後,宇宙科学研究本部宇宙航行システム研究系(日本学術振興会特別
研究員ポスドク)を経て,2007年にJAXAに入社.



      
                                 スタディツアーの様子

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