第12回セミナー(2018年10月9日)
「レーザー技術の開発と光ディスクの国際標準化活動」
講師:三橋 慶喜 氏(1964年[S39]制御卒)
タイトルスライド
背景の写真は、レマン湖(スイス)の大噴水、虹の撮影にずぶぬれになる。三橋氏撮影
【セミナーの概要】
日時:2018年10月9日(火) 15:30~17:00
場所:東工大蔵前会館(大岡山駅前) 2階 小会議室1
講師:三橋 慶喜 氏(1964年制御卒)
懇親会、於「あたり屋」(17:00~19:00 )
通産省の電気試験所(現在は産業技術総合研究所)、その後日本板硝子(㈱)筑波研究所、科学技術振興機構ERATOで、一貫してレーザー技術の研究開発に係わってこられた三橋慶喜さんに、専門外の方にも分かりやすく、レーザー技術の基礎から光ディスクへの応用まで、国立研究所における三橋さんの経験や日本ばかりでなく世界の研究変遷を踏まえてお話ししていただきました。
【セミナー参加者】
セミナー参加者
セミナー参加者
参加者(14名):鹿子木基員(1958 化学)、青田 正明(1961 機械)、岩上重信(1961 建築)、 岡安彰(1963 機械)、八嶋建明(1963 化工)、川村高星(1964 機械)、難波征太郎(1964 化工)、三橋慶喜(1964 制御)、福島 正之 (1967 建築)、横山 功一(1969 土木)、佐藤 修三(1971 電子)、前田 恭男(1972 土木)、前田 豊(1972 制御)、小関 伸夫(1974 建築)
【講演内容】
司会は、佐藤修三さん(1971年電子卒)にお願いした。
講師と司会者
講師の三橋慶喜さん(右)と司会の佐藤修三さん(左)
講演の構成は以下の3部となっており、専門分野が異なる参加者が多かったので、講演の途中で質問を受けて丁寧な回答があり、理解度を確かめるようにして進められた。そのため、質疑応答の時間は設けなかった。
川村さん写真
質問する同期の川村さん
【Part1 基礎事項(光の性質やレーザーの発生)】
(1)光(電磁波)について
中学または高校では幾何光学、レンズの焦点距離とか光の収束とかは習ったが、レーザーでは物理光学が重要となる。
レーザーは電磁波で、波長の長いところから並べると高周波、マイクロ波、ミリ波、それからサブミリ波、そのあとは、赤外光、可視光、紫外光、X線、ガンマ線などとなり、周波数(波長)、偏光、位相が重要。これは電波の習性と同じ。
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(2)光と自然
スライドは、発光、反射、屈折、回析の説明。観測される光に係わる現象が列挙されているが、そのきれいな写真がスライドで紹介されました。そのうちのオーロラ、飛行機の姿のブロッケン現象など、いくつかは、三橋氏が撮影された貴重なものである。また、モルホ蝶の実物も持参され、皆で回覧して詳しく見ることができた。
高温物体の発光は、黒体輻射という法則があり温度で色が決り、800℃では赤色、1500℃では白色となる。夜の虹とは、月の光でできる虹。放射の誘導放出による光増幅とは、外部から特定のエネルギーを加えると雪崩のように光が増幅放出されること。
レーザー(LASER)はLight Amplification by Stimulated Emission of Radiation。
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(3)He-Neレーザーの基本構造
スライドにHe-Neレーザーの基本構造(①共振器、②媒質、③エネルギー)が示されている。共振器は2枚の鏡で構成されていて、光が反射され往復する構造である。共振器の長さが最低でも30cm必要なので装置が大きくなってしまう。
無反射板の角度56度を発見したブリュスターは、万華鏡の発案者でもある。(万華鏡も持参され回覧した)
Q:1%分が外に出ていくと段々減衰していき、出力がなくなるのではないか?
←A.外部から励起のエネルギーを加えるので減衰することはない。
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(4)半導体レーザーの基本構造
半導体レーザーの基本的な構造(①共振器、②媒質=pn接合活性層、③エネルギー)は図のようになっていて、活性層(発光層)をクラッド層で挟んだ構造(ダブルへテロ構造)が作られており、電圧をかけると活性層内で発光する。クラッド層の屈折率が活性層より低いので光は活性層に閉じこめられ、また、活性層の両端面が反射鏡の役目をするので光は活性層内を増幅されながら往復して誘導放出(位相の揃った強い光が発生する現象)を生じてレーザー発振が起こる。これにより小型化が可能。
Q:1%分が外に出ていくと段々減衰していき、出力がなくなるのではないか?
←A.外部から励起のエネルギーを加えるので減衰することはない。
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基礎知識をおさらいした後で、本題の光ディスクの発展について詳しいお話があった。
【Part2 三橋慶喜氏の略歴とレーザーに係わる研究】
三橋さん写真
講師 三橋 慶喜 氏
三橋氏は、1964年制御工学科を卒業し、直ぐに電気試験所に就職(現在は産業技術総合研究所)。1972.9~1973.9に米国カーネギーメロン大学に留学。1990年に日本板硝子(㈱)筑波研究所長、その後1999年から2009年まで科学技術振興機構ERATOで技術参事を務められた。
現在は、特定非営利活動法人アーカイヴディスクテストセンター理事長。
(5)三橋さんが係わった研究分野
発表風景写真
発表風景
1960年にレーザーが発明され、就職した電気試験所では、この研究が検討されていた。1965年にレーザー研究室が設置されて、レーザーの勉強、He-Neレーザー組み立て、レーザーのパワーやエネルギーの国際標準作成を行い、その後、レーザー応用計測、レーザー情報処理などの研究を推進。その間にレーザー応用計測、光情報処理技術(ホログラフィ、光コンピュターなど)の研究に従事、レーザー医療、レーザー加工、光通信など幅広く従事した。
1983年、少し前オランダのフィリップスがHe-Neレーザーを用いたビデオディスクの研究開発、製品化も行い、ホログラフィメモリに代わる光ディスクが注目された、コンピュウター用途のメモリとして注目された。米国で光ディスクの標準化を推進する動きがあり、日本でも標準化を推進しようと委員会を開始した。国際対応の光ディスク標準化委員会はその後、情報処理学会情報規格調査会にSC23専門委員会が設置された。三橋氏は、国内(光協会)、国際(情報処理学会)でそれぞれの委員長を長らく務められた。
【Part3 レーザー技術の研究開発、光ディスクの発展】
(6)半導体レーザーの開発
光ディスクの発展で最重要な半導体レーザーの開発は全て日本で行われた。発端は米国でメイザー(He-Neレーザ-)が発明され、まもなく、米国とロシアの研究者が半導体レーザーを発明。そのときの半導体レーザーは極低温パルス発信だった。その後、室温パルス発信、室温連続発信に行き着くには10数年かかった。実用的なレーザーになったのは当時ベル研にいた、日本人の林厳雄さんによる、ダブルヘテロ接合の貢献があった。その後、長波長化(光通信用)、短波長化(光ディスク用)と2極分化して発展。この分野は、材料や構造、成長技術などの幾多の発明があり、日本の独壇場であった。
開発当初の半導体レーザーは、高価(30万円など)であった。電気試験所は、試験するために各社から最初の製品の無償提供を受けた。試験中には壊れやすく(静電気や思わぬサージで壊れてしまう)ので、一般の交流電源でなく、わざわざ専用の直流電源(蓄電池)を用いて実験していた。軽量プラスチックレンズの開発も高価(300万円)であった。
(7)Compact Disk(CD)の原理とCDプレーヤ
CDは、レコード盤と似て音楽やデータをレーザーを用いた光ピックアップで記録・読み取りする。CDの製造には、スタンパーと呼ばれる原盤を作り、樹脂を流し込んで複製を作る。
最初のAD変換(アナログデジタル変換)の量子化は、16ビット(2の16乗、65,536)であったが、DVDでは24ビット。大きさも12cm。これはソニーの大賀社長が、ベートーベンの第9が収まる記憶量ということでこの大きさになった。フィリップスは、より小さいサイズを主張。1984年、ソニーが49,800円のCDプレーヤを発売し、急速に普及した。
(8)光ディスクの発展
光ディスク用には当初Compact Disc赤外光780nm であったが、記録密度を高めるため、その後DVDでは赤色550nm, Blu Diskでは紫色の410nmが実用化された。マルチドライブはCD,各種DVD,各種BDを読み書きできる、下位互換性がある。
 Q.さらに記憶密度を拡大できないか?
 ←A.限界に来ているので、記憶容量を増やす技術が開発されている。記憶させる位置(表面からの深さ)を、複数取ることで記憶容量を増やせる。3層で300GBの例もある。
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(9)光ディスク産業の誕生・成長・衰退、これから
 光ディスクは、ビデオディスクから、CD、DVD、BDへと発展してきた。国内で研究開発が活発に行われて技術をリードしてきたが、近年はグローバリゼーションの進展で、国内生産額は急減。これからは、世界中で幅広く使っていくための媒体の互換性などの規格あるいは信頼性がポイントになる。BD(ブルーレイディスク)ビデオの規格は公表されていない。これは、海賊版(主に中国)対策として公表しないこととした。
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(10)その他(懇親会での質疑等)
Q.読めなくなったDVDはどうすればよいか?
←A.汚れをふき取る。または洗えばよい。最近の媒体はコーティニグされているので、たわしでこすっても壊れない。
(11)アーカイブ関連
セミナーの中で、「CD記録が1000年の保存に堪える」とのお話があったが、セミナー後に講師の三橋さんからこの件に関するコメント届けられた。(別ファイルのコメント「CD記録が1000年の保存に堪える」を参照のこと)
*** 参加者写真 ***
参加者左写真
参加者(左側)
参加者正面写真
参加者(正面)
参加者右写真
参加者(右側)
鹿子木さん写真
鹿子木さん
取りまとめ:横山功一@セミナー担当幹事
第12回セミナー(2018/10/9)
講師:三橋 慶喜 氏(1964年制御卒)
レーザー技術の開発と光ディスクの国際標準化活動
第12回セミナー報告(本ページ)
【講師(三橋慶喜氏)の略歴】
1964年制御卒、電気試験所に就職(現在は産業技術総合研究所)
1972.9~1973.9米国カーネギーメロン大学に留学
1990~1999年、日本板硝子(㈱)筑波研究所長、その後、科学技術振興機構ERATO
特定非営利活動法人アーカイヴディスクテストセンター理事長
1983年から光ディスク標準化委員会委員長、その後、国際会議の議長を4期、11年勤め、現在も委員会活動を継続中。
本セミナー担当
全体企画・ホームページ作成:横山功一幹事