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第3回セミナ―(2015年6月26日)

「橋・トンネルなどのインフラの高齢化問題」

講師:横山功一氏(1969年[S44]土木卒)

第3回セミナーは、2015年6月26日(金)、東工大蔵前会館の手島記念会議室にて、 横山功一氏(1969年土木工学科卒) を講師に迎え、「橋・トンネルなどのインフラの高齢化問題」について講演いただきました。 われわれの生活を支える橋やトンネルのようなインフラストラクチャ(社会基盤施設)も、建設から数十年経過して高年齢化が進行し、 維持管理が重要な問題になって来ていますので、問題と対応について紹介いただきました。
横山講師セミナー風景
講演する横山講師
当日は14名の参加がありました。
参加者:
後列左から:佐藤修三(1971,電子)、岩上重信(1961,建築)、岡安彰(1963,機械) 山本文雄(1967,化工)、 上島康弘(1965,機械)、福島正之(1967,建築)、小関伸夫(1974,建築) 前列左から;青田正明(1961,機械)、高木ヤスオ(1960,応化)、内山久雄((1969,土木)、横山功一(1969,土木) (講師)、 鹿子木基員(1958,化学)、大佛俊泰(バスケ部長、情報環境学専攻 大学院教授)、星野仁美(1959,機械)
集合写真
第3回セミナー参加者
司会の内山さん
セミナー司会の内山さん
セミナーの司会は、講師と同期で同じく土木工学科を卒業した内山久雄さん(東京理科大学名誉教授)が担当された。 まず、講師の略歴とともに、 今回の講演内容のバックグラウンドとなる戦後の社会経済状況(GDP、日経平均株価、為替レート)の推移の紹介があり、 講演がスタートした。
GDP変化と日経平均株価
GDPと日経平均株価
GDP変化と日経平均株価
為替レート(JPY/USD)のレート

セクション1

講演の主な内容は以下のような3項目であり、その後質疑応答を行いました。

セクション1

1.今、インフラ施設に何が起きているのか?

(1)トンネルや橋梁の事故・損傷
最近、トンネルや橋梁の事故・損傷が目立つようになって来ており、事例が紹介された。
損傷事故例(1)
中央道笹子トンネル天井板落下事故
2012年中央自動車道上り線笹子トンネルで、トンネル換気のために設置されている天井板及び隔壁板等が 約140m にわたり落下し、走行中の車複数台が巻き込まれて死傷者が出た。このトンネルは、1977年に供用開始され、 35年が経過していた。天井板はトンネル天頂部から吊り金具で吊り下げられ、 吊り金具同士の間は隔壁で仕切られており、この空間は「換気ダクト」の役割を果たしていた。
笹子トンネル崩落事故
崩落事故があった中央道・笹子トンネルの内部(大月市側から撮影)[毎日新聞=山梨県警提供]
笹子トンネル断面
天井板落下事故の概要[毎日新聞]
事故調査・検討委員会がとりまとめた最終報告書によると、事故は複合要因(施工時からボルトの強度が不足、 ボルトを固定していた接着剤が劣化、管理体制に不十分など)により起きたとされて、隣り合う天井板が 1 枚の隔壁板を介して連結されていたことで、約140mの区間にわたり連続して落下した。
損傷事故例(2)
山陽新幹線福岡トンネルコンクリート塊落下事故
1999年、山陽新幹線、博多駅 - 小倉駅間にある福岡トンネルの天井部のコンクリート壁の一部分(2m×50cm×50cm)が 落下し、新幹線車両の屋根やパンタグラフを破損させた。幸い、乗客に被害はなかった。
	山陽新幹線
山陽新幹線福岡トンネルコンクリート塊落下
損傷事故例(3)
米国ミネソタ州の高速道路橋の崩落
2007年米国ミネソタ州ミネアポリスでミシシッピ川に架かる州間高速道路の橋が崩壊し、 50台以上の車が約30メートル下の川に落下した。米国の国家運輸安全委員会は橋の設計を調べ直したところ、 トラス橋の8カ所の格点にある計16枚のガセットプレート(添接板)の厚さが、必要な厚さの半分ほどしかなかったと発表した。
	ミネソタ橋落下
2007年米ミネソタ州ミネアポリスでミシシッピ川に架かる州間高速道路の橋が崩壊 (Allen Brisson-Smith for The New York Times)
損傷事故例(4)
木曽川大橋(国道23号、三重県)の斜材が破断
1963年に建設されたトラス橋の斜材が破断し、破断箇所は10cmのずれが発生した。 建設後44年の間に、床版と斜材の間にできたすき間に雨水が浸透して鋼部材が腐食し、 さらに,車の繰り返し荷重が加わって破断したとみられる。
木曽川陸橋トラス
木曽川大橋(国道23号、三重県)の斜材が破断 破断箇所は、10cmのずれが発生。橋の下から、仮受けをして、1車線のみ交通。 2007年6月(写真:国土交通省三重河川国道事務所)
ここで紹介した損傷事例は、供用開始から数十年経過している高齢施設であり、 損傷の原因としては、設計・施工、環境作用による劣化、維持管理などが複雑に関係している。
(2)ストックの高齢化
横山講師
横山講師
わが国の終戦から現在までを振りかえてみると、増加を続けた総人口は減少に転じ、 人口構成が大きく変化し、高齢化が進み、また経済の華々しい成長も1990年代に入り 「失われた20年」と呼ばれるように停滞が続き、公共投資もひと頃の半分になってしまっている。 一方、インフラ施設群についてみてみると、下図に見られるように戦後年々建設数が増加し、 高度成長期にピークを迎え、その後減少に転じた。これら高度成長期に建設された多くの橋梁は高齢期を迎えている。 建設後50年を経過した橋の全体に対する比率を見てみると、現在は18%だが、 10年後には43%、20年後には67%と急激に大きくなることが分かる。
建設物は、年とともにあちこち傷んでくる。私たちの生活を支えるインフラの高齢化は、 暮らしの安心・安全問題にかかわり、同時に財政負担がわれわれに重くのしかかってくる。
施設経年分布
建設年度別施設数:橋も高齢化が進行
50年経過施設分布
50年経過施設の割合

セクション2

2.何が問題なのか?

今後、建設後50年を経過したような高齢施設の数が、急激に増加する。 インフラ施設は、年数の経過とともに、劣化・損傷が増え、事故も目立つようになる。 構造物は主にコンクリートと鋼を使って建設されており、長期間使用していると、鋼部材では、 腐食と荷重の繰り返し作用による金属疲労が、そしてコンクリ-ト部材では、 中性化、海からの飛来塩分や凍結防止剤散布による塩分による塩害、アルカリ骨材反応による損傷が生じ、 維持管理上の問題となる。
すなわち、構造物の高齢化に伴い、維持管理業務が増え、専門技術者の需要が増大する。 同時に、費用(点検、補修)が増大することになる。

セクション3

3.どう対処しようとしているのか?

(1)新しい維持管理
現在、インフラ施設はどのように維持管理されているのであろうか?道路橋の場合、 管理担当機関は道路の種類に応じて、国(国土交通省)、都道府県、市町村などとなっていて、 それぞれが管理する道路橋の数に対する専門技術者数、予算などに違いがあり、 維持管理(点検・診断、維持補修など)のレベルにも若干の差があるのが実状である。
(1)誰が管理?
現在までに行われてきた維持管理は、簡単に言うと、点検→診断→補修のサイクルを繰り返すものであり、 点検により損傷を発見して必要な手当てをするものであった。言ってみれば、「事後的な」対応であったわけであるが、 国土交通省は、事後的な対応を改め、今後は予防的な修繕及び計画的な架替えとする維持管理の政策転換を図ってきている。 すなわち、予防的な対応として、橋梁の長寿命化を実現し、 これにより橋梁の修繕及び架替えに係る費用を事後保全の場合よりも縮減を図りつつ、 道路網の安全性・信頼性を確保しようとしている。
(2)橋の高齢化対策
(2)点検・維持管理に望まれる技術
それでは、点検・維持管理をより効果的・効率的に進めるために必要な技術には何が求められているのであろうか? まず、構造物の状況を把握する点検が維持管理の基本となっており、点検員が近接目視を行うことからその支援技術 (点検個所に接近するための橋梁点検車や遠隔での観察ロボット、例えばドローンなど)が重要になる。
さらに目視に代わり、センサを配置し損傷個所や程度を明らかにするセンシング、あるいはモニタリング技術が注目されているが 、実用化のためにはまだまだ改善すべき事項が多い。
ここで講演が終了し質疑に移った。
(3)人と健康の管理
(4)点検管理に臨まれる技術
(5)目視点検サポート

QA

質疑

Q:笹子トンネルの天井板落下の事故ですが、天井はあのような重いコンクリートではなく、 プラスチックの板のような軽い材料にできなかったのでしょうか?
質問する岡安さん
熱心井に質問する岡安さん
見守る青田さん、岩上さん
A:当時の自動車の排気ガスは、現在の排気ガスほどきれいではなかった。 そのために、トンネル内に大規模な空気の循環設備を設ける必要があった。構造としては、トンネル上部から約5mの仕切り板を吊り、 片側約5mの天井板が必要であった。また、これを点検するために天井板もそれなりの強度が必要で、 コンクリート製の天井板を設置したと想定される。
Q:笹子トンネルの天井脱落事故についての報道の中で、「天井板を止めるのに、 ボルトと接着剤が使われていたが、接着強度が経年劣化して脱落を起こしたのかもしれない」と書いてあったのを覚えているが、 その疑いの決着はどのようにつけられたのか?天井板の脱落は、130メートルにわたって脱落した所で止まったが、 何故脱落が止まったのか、分かっていれば教えてください。
A:崩落の原因については、調査委員会から詳しい事故の状況やメカニズムの推定などが 取りまとめられた報告書が出ているので、これを参考にしてください。
Q:道路、橋などの建設時には、建築でいう建築基準法に基づく建築確認や完成検査は有りますか。
A:工事完成時には、発注者である国あるいは地方自治体による検査がある。
Q:国が定期点検の技術基準を示したということは省令などで法的義務を施設管理者に課したということですか。 また、国が技術基準を示したのが平成26年なので、それから5年以内に村などの地方自治体は点検を 完了しないといけないことになるということですか。
A:法律で5年以内に点検を一巡させなければならない。 既に一巡目の点検を完了したところもある。
C:以前、人口1,000人以下の村に9年間程度住んでいたことがあるが、実施は大変だと思われる。 国の審議会では現場の立場で点検し記録を残せるシステムを検討しているが、中央にデータを吸い上げることがメインになりがちなので、 現場で困っていることに親身に相談に乗ってもらえる人を地方に配置するなどの仕組みが必要ではないか。
C:国交省の審議会で、インフラの統廃合、除却を進めるとの答申が出されていることは大変良いことだと思う。 (審議会で答申されると、国交省が、例えば除却に伴う損失処理の税制優遇措置を財務省に要求しやすくなる。)
C:これは難しい質問になるかもしれませんが、時間があったらコメントしてください。
1.より安価で長持ちのするメンテナンス技術の開発が必要であり,これが鍵を握りそう。
2.人口増加,経済成長とともに整備して(増やして)きた道路を,人口減少の枠組みのなかで廃止して(減らして)ゆく という議論(施策)は可能か?

懇親会

懇親会

セミナー終了後、隣の部屋で一つのテーブルを囲み、セミナーの追加の質問や意見、それに初めて参加した岩上さん、 上島さん、福島さんから挨拶をいただき和やかな楽しい時間を持ちました。会の最後のセレモニーは、 同窓会行事の恒例になっている内山さんの5本の指を使った?締めで終了しました。
懇親会風景
セミナー後の飲み物食べ物を楽しみながらの自由な意見交換の場となる懇親会
上島さん
ゼスチャーたっぷりに話をされるセミナー初参加の上島さん
      
文責:横山功一(1969年土木卒)