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東工大バスケ同窓会第2回セミナーが開催された。(2014年11月20日)
大野隆造氏

「生活環境の知覚および認知に関する一連の研究」および経験談

第2回セミナーは、2014年11月20日(木)、東工大蔵前会館の手島記念会議室にて、2014年3月までバスケ部の部長兼監督を務めてくださいました東工大大学院教授 大野隆造氏(1972年建築卒) を講師に迎え、本年度日本建築学会賞(論文)を受賞されました研究テーマ「生活環境の知覚および認知に関する一連の研究」および先生の経験談についてお話しいただきました。当日は現役学部生・院生4名を含め16名の参加者でした。

大野先生は受賞研究内容の話だけではなく、この日は3つの観点でお話を進めてくださいました。

「生活環境の知覚および認知に関する一連の研究」概要

大変興味深いお話で、活発な質疑応答後の懇親会でも様々な視点からの発言があり、盛会のうちにお開きとなりました。

なお、本報告で使用した図は全て大野先生の著作物(スライド)から引用したもので、権利は大野先生に帰属いたします。

参加者:

鹿子木基員(1958,化学), 星野仁美(1959,機械),高木ヤスオ(1960,応化)
青田正明(1961,機械),稲垣達敏(1967,化工),福島正之(1967,建築)
山本文雄(1967,化工),横山功一(1969,土木),大野隆造(講師)
前田豊(1972,制御),小関伸夫(1974,建築),世利卓也(1985,有機材料)
小路智也(M2,2013,電電),西川潤平(M2,2013,物理)
山崎竜也(M2,2013,電電), 守屋洸洋(学部4年,機械宇宙)

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講師の大野隆造先生
【セミナー】

1. 建築と環境心理学・環境行動研究~環境心理行動研究ってなに?~

建築デザインの目的は、「利用者の要求に適合する環境の構築」であり、具体的には「強さ」「機能性」「心理・行動的適合性」と言われています。

往々にして、建築家などの環境デザイナーはお金を払う発注者(クライアント・施主)とは綿密なコミュニケーションをとりますが、一方、ユーザ(空間・施設の実際の利用者)との間ではあまり話す機会は少ないのです。我々が研究している環境心理行動学とは、ユーザの心理・行動を研究することで、環境デザイナーに予め「ユーザのことを良く知ってもらおう」というものです。
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(写真左はジャワ島の日蔭をつくる伝統的家屋のポーチ。右は海外援助によるドーム型の震災復興住宅。丈夫だが日蔭を作る庇がなく、住民の居場所が無い。環境心理学は、ユーザーの心理・行動を研究してこのようなかい離を無くことを目的の一つとしている。)

もう1つ環境心理行動学を学ぶ理由があります。複雑化・巨大化した都市の中で、人が不都合なく行動できるようにするにはどうすれば良いかという問題です。そのためには、人はどのようにして道を憶えるかなど、基本的な知覚などを研究する必要があります。

建築・都市空間をデザインするということは、そこを訪れた人がどのような「体験」をするかをデザインすることです。そのためには、ある環境で人は何を見て、何を感じ、どのような情報を受け取るかを研究し、さらに、環境から受け取る情報をどんな仕組みで、我々は取り入れるかという研究が重要と考え、研究を進めました。

このお話の詳細はここをクリックしてご覧ください。

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熱心に耳を傾ける聴講者

2. 研究者を目指した経緯~卒業後の「モラトリアム」経験!~

私は1972年に建築学科を卒業しました。当時は景気が大変良く、就職先には困らなかったのですが、私自身何をしたら良いのかあまり確信がもてず、いわゆる「モラトリアム」状態でした。私は就職活動をしなかったのです。

そのときに、東工大教授で有名な建築家でもあった清家清先生から、「長津田の新しいキャンパス(今のすずかけ台キャンパス)に80周年記念館を設計するので手伝って欲しい」とのお話があり、喜んでお手伝いすることになりました。しかし、1年半をかけて設計して、実施設計に入り正に施工という時期に突然計画は中止になり、私は失職してしまいました。

そこで、今度は大学院を受験しようと思い立ちました。無事に合格して修士課程を終え、またまた「モラトリアム」で進路に迷いましたが、とりあえず博士課程へ進学しました。この頃はまだ自分は研究者になりたいとは思っておりませんでした。

ところが、博士課程在学中に奨学金を得て、ウィスコンシン大学の修士課程に留学し、アメリカの環境心理・行動学の分野のトップの研究者と付き合っているうちに、次第に建築のデザインよりも、環境心理・行動学の分野の研究が面白くなってきました。そこで建築分野の行動研究のコースに進み2年滞在して修士号を得て帰国しました。

1980年に帰国後、博士課程に戻り、途中で中国の調査に携わったりましたが博士課程を1982年に修了しました。その後、すぐには就職できずに1年間過ごしたあと、東工大建築材料学の小野英哲先生の助手に就きました。小野先生はさまざまな実験装置を考案し、その装置を作って研究されていました。自分で製作した装置で得られたデータは絶対にオリジナルです。研究の武器ともいえる実験装置を自分で作る大切さをこの3年間で教わりました。

1986年に神戸大学の教養部で図学の教師の求人があり、それに応募して面接を受けた際に、コンピュータに詳しいか訊かれ、実際は全く知らなかったのですが、「何とかなります」と言って採用され赴任しました。そのため、コンピュータグラフィックス(CG)のプログラミングを俄か勉強で覚えることになり、それがその後の研究にも役立つことになりました。また、そこで私は小野先生を見習って、実験装置を自作してオリジナルな研究に励むことができました。

その後工学部に移り、9年間を神戸大学で過ごしたのち、1995年に東工大に戻りました。
3. 建築学会賞受賞研究テーマ

「生活環境の知覚および認知に関する一連の研究」概要

私が受賞した「生活環境の知覚および認知に関する一連の研究」は実はいくつかのシリーズの研究に対して与えられたものです。1つ目は「環境視による知覚に関する研究」、2つ目は「空間移動時の知覚体験とそれに伴う環境認知に関する研究」そして3つ目が「経路および領域の認知に関する研究」です。

私は卒論以降博士論文もテクスチャーに関する研究をしておりました。東工大に教えに来ていた環境心理・行動学の権威であるThiel先生と接しているうちに、単にテクスチャーの見え方だけではなく、人は動くことによって周囲の景色が変わり、それによって三次元空間を知覚していることに気付き、興味を持つようになったのです。

私の研究が他の研究者と異なるオリジナルな点は、前方だけでなく周りの広い空間が、動くことによって知覚されることに着目したところにあります。

第1部 環境視による知覚に関する研究

まず近年の環境心理学の知見に基づいて、日常の生活環境からどのような視覚情報をどのように受け取り行動しているのかについて、あらためて見直し、それを建築の屋外空間等の分析に適用することを試みています。具体的には、注視された「モノ」から情報を得る「焦点視」に対して、都市・建築空間における知覚としてより重要な、人を取り巻く広い環境から情報を得る「環境視」の概念を導入して、所与の環境における環境視情報を、その場所の配置図、地形図、樹木配置図のデータをもとに簡易に計測するPCプログラムを開発しています。そしてその計測手法を建築計画へ応用する方法を提案し、集合住宅の屋外環境や日本庭園などの事例に適用してその有効性を検証しています(大野先生が作成したスライドより引用)。

このお話の詳細はここをクリックしてご覧ください。

残念ながら、このお話を終えたころに、時間が来てしまいました。以下、第2部、第3部の研究概要を記します。

第2部 空間移動時の知覚体験とそれに伴う環境認知に関する研究

空間を動き回る人の行動自体が環境知覚において重要な働きをしているとするギブソンの理論等を背景として、人が空間を移動する際に、環境をどのように知覚し、それによって環境が理解され記憶されるのかについて扱っています。

人が空間を移動する際の、人間と環境の関わりを考察する際の困難は、環境状況も人の心理反応もダイナミックに変化することです。そこでこれを克服するためリアルタイムで連続的に心理評定と記録が可能な方法を考案して、実際の空間およびシミュレーション空間における実験に適用しています。また、従来視覚による環境知覚が偏重されてきたことに抗して、移動時の身体運動感覚による環境知覚および認知、つまり体で感じて覚えることの重要性について論じています(大野先生が作成したスライドより引用)。

第3部 経路および領域の認知に関する研究

人が環境のどのような情報を手掛かりとして正しい道や場所を記憶しているのか、またどういった場所にどのような意味付けを行っているのか、そしてそれに従ってどう行動しているのかといった研究課題を設定し、実際の建物内部空間および無重力環境のシミュレーション空間での経路探索行動、地下鉄駅構内での避難行動、公共空間での居場所選択行動に関する実験、また住宅屋外空間の使われ方などについての観察とインタビュー調査を行い、様々な場面や状況で、人がどのようにその環境をとらえ、記憶し、意味付け、行動しているのかを明らかにしています(大野先生が作成したスライドより引用)。

更に詳しくは下記、日本建築学会に掲載されている大野先生の論文内容URLをご覧ください。

さいごに

これまでは環境心理行動学を西洋的な発想のコンセプトを基に学び、研究してきましたが、今後は日本発あるいはアジア発のコンセプトを考え始めています。先日、日本のひとつのセンスとして「UTSUROI」(うつろい)について発表しました。例えば桜の景色は満開の時だけが良いわけでなく、時間の流れに応じて徐々に変化していく「UTSUROI」が愛でられます。また、懐石料理では、旬の料理は勿論、これからのシーズンの料理「先駆」や、シーズンを過ぎた料理「名残」を出すことによって時間の変化を「食」でも表しています。また、能舞台の「橋掛り」や歌舞伎の「花道」も、演者がメインの舞台へ移動するためだけでなく、そこでも大切な演技が行われる、つまり「うつろう」場所が重要な意味を持っているわけです。

最後に、日本の武道(剣道、柔道等)や芸道(茶道、華道等)は全て「道」なのですね。これは、最終到達点が決まっているわけではなく、常に徐々に上達していくものですので「道」と言われているのでしょう。

(拍手)

【質疑応答】
Q1 デザイナーとユーザのコミュニケーションギャップのお話がありましたが、ユーザの価値観が刻々変化する中で、ユーザニーズを把握する具体的な方法がありましたらお聞かせください。
A1 まず、ユーザにはいろいろな人がいることを理解しておかなければなりません。例えば高齢者はこうだとか、子供はこうだとかデザイナーが紋切り型に決め付けることをしては失敗します。非常にきめ細かく、どのような人がどのような状況で使用するか把握する必要があります。また、性能が良く、価格も安く、デザインも良いからと、「論理的」に考えても売れるとは限りません。いざ買うか否かはかなりデリケートな部分があります。ですから、現場でユーザと一緒にデザインしていくこともひとつの方法でしょう。一口にこうだとは言えないことを理解してください。
Q2 研究成果を現実のアクションプランにフィードバック・評価・診断する仕掛けはありますか?
A2 基本的なものはあります。例えば、犯罪を未然に防ぐための方策や結露を防ぐような物理的な環境計画マニュアル、モデルはあります。しかしながら、それだけでは現実問題として十分ではありません。いろいろなケースで固有の地形、人々の風土文化もあります。良くできたモデルでは様々なケースに適用可能なものもありますが、完全なものは無いので状況に合わせて適用するべきでしょう。
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和やかな雰囲気で質疑応答 空白文字空白 世利さんからは専門的な質問も

Q 汎用的な素材開発においてメーカーはどうしても「強度」や「伸びる」など機能的ベネフィットを重要視する傾向があります。しかし、素材は良いけれどデザインが良くないということもあります。人が触ってくれるモノを開発する際に、素材に対するニーズや要求をメーカーとしてどこまで、どう把握すれば良いのでしょうか。
A3 素材がどのような使われ方をする可能性があるか、心理学者J. J. Gibsonが言う「アフォーダンス」の問題ですね。アフォーダンスというのは、その対象が人(動物)にどんな行動を可能としているかということです。例えばこの道具はこのように使うという基本はあるが、こんな使い方もできる、これにも使えるといった発見的な使い方ができるというものです。素材の観点ではなかなか難しい問題です。しかし原点に戻って、同じ用途で他社より良いモノを創ろうという考えではなく、そのモノの使い方の可能性そのものを広げるということをお考えであれば素晴らしいと思います。
以上
【懇親会】
星野さんの発声で乾杯し、懇親会が始まり、いろいろな話題で盛り上がりました。
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■グローバルな世界の中でも自分を持っている人が真の国際人
■今は直ぐに出来ないことにも「出来ます」と挑戦する姿勢が大切
■実験装置を自作するのは必ずオリジナルなデータになり、素晴らしい
など、話題は尽きず、若干時間オーバーとなりました。
最後に記念写真を撮って本当にお開きとなりました。
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文責:第2回セミナー担当幹事 小関 伸夫