はじめに
第11回セミナー(2018年5月17日)
石炭をきれいに使って発電しよう
講師:牧野 啓二 氏 (1966年[S41]機械卒)
【写真-1】牧野講師によるセミナーがはじまった。
蔵前会館の大会議室に講師含め15名の同窓会員が集まり、牧野啓二氏による最新の
クリーンコールテクノロジーのお話をお聞きした。
【写真-2】懇親会での白熱議論(右から郷さん、牧野さん、難波さん、武田さん)
皆様の関心の高いエネルギーに関することでもあり懇親会含め参加者全体が相当テンションが高まったセミナーとなった。
以下に懇親会含めセミナーの実施概要を取りまとめた。また、
セミナーの目次をこちらに示すが、時間も限られたため、目次のグリーンで示した項目についてお話があり、目次のこの項目をクリックすることで本文の該当項目に移動する。
なお、本報告で使用した図表類は、一部を除き牧野氏の講演資料から引用させて頂いている。
クリーンコールテクノロジーとして石炭火力発電で排出されるCO2の
分離、貯蔵が参加者にとって興味あるテーマでもあったが、これに関連し、若手同窓生の
中田明伸氏(2012年化学卒)が、光触媒によりCO2を還元する研究で
平成29年度の手島精一記念賞を受賞されたとの情報があった。
現在京都大学の特定助教をされている中田氏にメールを差し上げたところ、
紹介スライドを送って頂いたので、司会者が紹介したところ、
若手の活躍が大変身近に感じられ、セミナーも大変盛り上がった。
【写真-3】平成29年手島精一記念賞を受賞した中田明伸氏
(左から2人目、右端は三島学長(当時)、集合写真から抜き出し)
「水溶液中において駆動するCO2還元触媒の創生」で受賞
石炭の基礎
石炭の基礎
石炭は水分が多く採炭サイトで発電するのが原則だった。
【図 -1】ASMEによる石炭のランク分類
横軸:Btu(英熱量);縦軸:炭素比率(%)
石炭は数億年前の植物で、年代により図-1の石炭のカーボン密度によりランク分けされている。一番低品位の褐炭は年代も新しく水分含有量が50%程度なので、輸送すると水分を運んでいることとなるため、採掘場に隣接して石炭火力発電所を建設し、コンベアで石炭を供給するのが常識だった。
日本では、中ランクの瀝青炭が産出されていたが、世界で初めて石炭を輸入して世界を驚かせたた。輸入炭も瀝青炭が主でこれに適したボイラーなどの機器を開発し、環境対策含め世界に冠たる技術を確立した。今では、多くの国が石炭の輸入をしており、瀝青炭を輸入している国には日本から技術支援を行い、エネルギーの確保のみならず環境の大幅な改善に貢献している。なお、現在位日本では北海道の釧路炭鉱1か所のみで採掘が行われている。
石炭の可採年数は110年、安価で安定して入手できるエネルギー源
【図-2】石炭の可採年数
【図-3】石炭の価格の推移
石炭は今後どのくらいの期間採掘できるかを石油・天然ガスとともに図-2に示した。
この可採年数は経済的に入手できるとの条件付きで、石油や天然ガスが新たな資源が見つかり
伸びる傾向にあるのに対し、石炭の場合は数年前に可採年数が200年であったのが、世界中で使われ現在は110年となっている。
図-3に石油と天然ガスと比較して石炭の価格の推移を示す。
石油、天然ガスが投機的商品で変動が大きいのに対し、石炭は安定していてしかも安い。
【図 -4】世界の石炭可採埋蔵量
更に、図-4に示すように世界の石炭の可採埋蔵量は、アメリカ、中国、ロシアなど中近東以外の
比較的政治的に安定した地域で多くなっているので、安価の上、安定して入手できる優れたエネルギー源といえる。
なお、日本は政策的に釧路炭鉱のみが稼働しており、主にオーストラリアから輸入している。
【写真 -4】50年ぶり再会の上島さんと牧野さん。まずは名刺交換から。
日本及び世界のエネルギー消費量と石炭の割合
【図 -5】日本の電源構成の変化
図-5に日本の電源構成の推移を示す。2011年の福島第1原子力発電所の事故以降、原子力発電がほぼゼロとなっているが、石炭火力はフルロードで運転してきているため原子力発電の穴埋めができず、発電量は30%程度と変化していない。古い火力発電所を立ち上げるなどしてLNGがこの穴埋めをしている。
【図 -6】世界の一次エネルギー消費量の変化
【図 -7】世界の石炭消費量の推移(褐炭含む)
図-6に世界の一次エネルギー消費量の推移を示すが、石炭は消費量全体の伸びに合わせて約30%を占めている。
また、図-7に示すように消費量全体の50%近くを中国が占めており、インド、アメリカがこれに続いている。
図示していないが、地域別でゆくと、アメリカ、EUは消費エネルギーに占める石炭の比率が減少してきているが、
アジアでは消費量増加とともに石炭の比率も増加する傾向にある。
アジアでは、安価で安定していてエネルギー密度の高い石炭を使いたいと考えているが、
パリ協定の制約もあり悩みも大きい。
【写真 -5】牧野さんの講演を真剣に聞く参加者。
クリーンコールテクノロジー
クリーンコールテクノロジ(CCT)
1955年の東京工業地帯
1970年の東京工業地帯
現在の東京工業地帯
【写真-6】日本は排煙処理技術を真剣に開発し、世界に冠たる技術を確立した。
東南アジアなどにこの技術の導入を働きかけている。
【写真-6】しばらく前のクリーンコールテクノロジーは、NOx,SOx,煤塵除去が対象だったが、現在はCO2が地球温暖化対策の対象として残った。図-8にクリーンコールテクノロジーの体系を示すが、これまでの地球環境対策から地球温暖化対策に重点が移っている。対策技術として(1)石炭火力の高効率化 (2)CO2回収 (3)再生エネルギーとリンクした技術(バイオマス混焼)があるが、ここでは、(1)高効率化と(2)CO2を説明する。
【図-8】クリーンコールテクノロジーの体系
【写真-7】プロジェクターがトラブッテていないかな?心配するセミナー担当の横山副会長
石炭火力の高効率化
高効率化することにより少ない石炭で必要な熱量を得ることができ、CO2発生量を低減できる。図-9に高効率化の経緯を示すが、石炭火力発電の高効率化は、高温に耐える材料を開発して蒸気温度を高める歴史だった。しばらく566℃の時代が続き、1980年ごろから世界に先駆け住金が材料を開発して現在620℃が稼働しており、630℃のプラントが建設されている。他の材料メーカは作れない。
高効率ユニットは日本が最初で、ドイツ、アメリカなどのほか中国では
相当早いペースで高効率化石炭火力発電所の建設が進んでいる。
【図 -9】石炭火力の高効率化の経緯
CO2の分離・回収
【図 -10】CO2削減に関する450シナリオ
(IEA World Energy Outlook 2016)
国際エネルギー機関(IEA) は毎年エネルギー予測、見通しに関する報告 World Energy Outlookを出しているが、2016年にもいくつかのシミュレーションを行っている。2100年のCO2による温度上昇を産業革命から2℃以内にするためには空気中濃度450ppm以内とする必要があり、これを達成る条件として図-10が示されている。それぞれの項目ごとに厳しい条件となっており、石炭火力におけるCO2の分離・回収(図ではCCSとして示されている)も大変高いハードルとなっている。
【図-11】CO2の分離回収のイメージ(METI CCS 2020)
図-11にCO2の分離回収のイメージを示す。石炭火力発電所のサイトで分離回収し、効率よく圧入移送するため、CO
2を200℃70気圧の
超臨界状態とする。最適な貯蔵場所は地下3000mの水と共存する砂岩層で、圧入により水を押しのけてこの層に貯蔵する。貯蔵槽層の上部には不透水層の保護層で閉じ込める。
【図 -12】分離回収したCO2を地下に圧入するポンプ
日本では、苫小牧で2~3年試験をしている。世界的には、石油が採れるようなところが適地になっているが、日本で適地はほとんどない。
なお、石炭は数億年も地下に存在し、使い始めたのはほんの100年前なので、このようなところに長期間貯蔵して漏れて困るようなことはあまり心配しなくて良いと考えられる。図-12は牧野さんも立ち会って試験をしたドイツの圧入ポンプで、注入部分ははこれだけである。
コストは発電単価として1.5倍ぐらいで、経済的には使えない。1.2倍程度を目指しているがまだ見通しは立っていない。ノルウェーでは、CO2を排出すると税金が高くなるので、分離回収・貯蔵まで実施している企業がでてきている。
集合写真
手島記念賞受賞された中田明伸氏の紹介
【写真-9】中田明伸氏受賞内容
中田氏は2017年の東工大博士論文で手島記念賞を受賞し、現在は京都大学で特定助教として研究活動を行っている新進気鋭の若手研究者である。
今回、本日のセミナーに合わせて、受賞などに関するスライドをお送りいただいたので紹介したが、懇親会の冒頭ということもあり、またCO2の還元、有機物の生成という刺激的な研究内容であもあることから、この議題含め懇親会が更に盛りあがった。
また、上記資料の締めくくりにある「研究開発は取り組み次第でいくらでも楽しくできる最高の仕事。楽しむこと忘れずに、未来の新しい化学を一緒に作っていきましょう!」の部分を紹介したところ感嘆の声が上がり、更に、HCDは今年も参加難しいが今後予定がついたら参加したい。とのお話を紹介したところ、受賞の祝福含めた拍手が湧いた。
懇親会
【写真-9】武田副会長の乾杯の音頭
講師の牧野さんの同期でもある武田副会長の乾杯の音頭で懇親会が始まった。
以前から牧野さんがクリーンコールテクノロジー分野で活躍されているとのお話が聞こえてきており、
同窓会役員会の中でもセミナーでお話をお聞きしたいとの要望があったが、
武田さんから同期の皆様への総会・新年会へのお誘いがきっかけで幸いにも今回のセミナーが実現した。
【写真 -10】三橋さんに一升瓶ワインを勧める横山さん、隣は松田さん
念願の牧野さんの講演が実現することとなったため、話題性も期待して、
甲府で一升瓶熟成も手掛けているサドヤのワインを用意したが、石炭の話が弾み、
話題性提供の面でこのワインの出番はなかった。
懇親会での議論、意見のいくつかを以下に紹介する。
(地球規模でCO2を減らす方法について)
【写真 -11】牧野さんの話を聞く手前から岡安さん、成田さん、福島さん、前田豊さん。
手前は難波さん。
武田さんから、石炭のみに限らず、地球規模でCO
2を減らす手段について質問があった。
これに対し、難波さんから、包括的に3種類の方法について解説があった。
- 植物の連鎖を活用する。:新たな植栽が必要で、砂漠を緑化するなどが必要。
- サンゴのような炭酸カルシュウムとして固定する。:大量のアルカリが必要となる。
- 地中に貯蔵する。:これしかないと考える。
牧野さんから以下のお話があった。
CO2をプラスチックにする開発が企業などでも実施されているが、
必要なプラスチック量に対しCO2の量が多すぎる。
何億年もかかって石炭化され地中に眠っていたものを近代になって
ほんの一瞬で使い果たして発生した安定物資であるCO2は、
また地中に戻して何億貯蔵するのが良いと考えている。現状コストが課題でこれを解決する必要がある。
(本当にCO2は温暖化の原因になているのか)
【写真 -12】左から武田さん、牧野さん、郷さん。同期です。
5~6年前までは専門家の50%は、CO
2が温暖化の要因であることに懐疑的であったが、
現在は90%の専門家が温暖化の原因であると認めているとして、牧野さんから、
その根拠をスライドにて説明があった。
詳細はこちらを参照されたい。
(郷さんの決意表明)
郷さんからCO2と光化学などのご意見があったので、
本格的にお話をお聞きしたいとの希望が出て、郷さんからは以下の大変心強い意志表明があった。
CO2の化学について難波さんと協力して1年以内にこのセミナーで話をする。・・・期待をしてお待ちします。
(中田さんとのことなど-鹿子木さんのお話)
【写真 -13】鹿子木さん(手前)と話し込む上島さん、
その隣は誰かと議論する前田恭男さん。
【写真 -14】前田恭男さんと武田さん
鹿子木さんが会長を引き受けた年に中田明伸さんは4年生で、リーグ戦では入れ替え戦に出て惜敗した。
卒業して中田さんとその同期はコーチとして頑張り、その年の入れ替え戦で群馬大学に大勝して4部に昇格した。
そのような訳で中田さんは良く知っているので手島記念賞をもらったのは大変嬉しく、
今後の活躍に向け励ました。
今日の牧野さんのお話は大変楽しかった。数十億年前のエネルギーを使い果たすのではないかなど
の議論があり、30年後の計画も決まっていないのも情けないが、私の祖父が生まれて100年、
電気もなにもない100年前に対しデジタルの今の時代を享受しており、
今後をあまり心配することは無いと思っている。むしろバスケットボール部
同窓会の絆を深めるのが大切。
(CO2貯蔵場所確保の利権について)
上島さん:CO2貯蔵できる適地は限られているようなので、石油のように適地が利権化されるような心配はないのか。心配があれば今のうちに手を打っておく必要がある。
牧野さん:石炭産出地域が適地で広大な土地があり問題ないと思うが、こんなこともあった。
オーストラリアにおいて褐炭から水素を生成して日本に運び、
CO2フリーで使う案があったが、水素生成過程でCO2が発生し、
地中に貯蔵するなどが必要になる。
水素だけ日本に運び、CO2は残してゆくことが問題となりこの案は取りやめになった。
(メタンハイドレートの見通し)
成田さんから、エネルギー源としてメタンハイドレートはどうか。との質問があった。現在日本では海洋開発機構が取り組んでいるが、コスト的に見通しがたていない。とのことであった。
(若手参加を期待)
前田豊さんから本日のお話は将来のことであり、若手に聞いてもらうようにすべきとのご意見があった。
【写真 -15】牧野講師
(講師まとめ)
今日のセミナーで石炭のスタンスを理解して頂ければそれで十分です。
文責:山本文雄(1967年応化卒)