第8回セミナー(2017年9月13日)
「大人の食育 ー知っていましたかー 」
講師:高木 ヤスオ 氏 (1960年[S35]応用化学卒)
セミナー全景写真
セミナー全景写真
セミナー《大人の食育―知っていましたかー》では、応用化学(高分子合成が卒論)出身者の高木さんが、どのような経緯で食品関係の企業で寄与してきたか、その後はどうしてきたかを紹介し、メインテーマの健康と食品についての最近の情報をプレゼンし、質問に答える形で理解を深める構成としている。
開催日時:9月13日(水)11:00~12:30
場所:蔵前会館2階 大会議室(大岡山駅前)
参加者(15名):鹿子木基員(1958化学)、星野仁美(1959 機械)、関口克正(1960 機械)、高木ヤスオ(1960応化)、青田正明(1961 機械)、岩上重信(1961 建築)、岡安彰(1963 機械)、福島正之(1967 建築)、山本文雄(1967 応化)、横山功一(1969 土木)、前田恭男(1972 土木)、前田豊(1972 制御)、小関伸夫(1974 建築)、小関マリ(小関夫人)、酒井美律希(M1)
懇親会:精養軒大岡山店12:30~13:30蔵前会館2階
【セミナーの開催経緯】
今回、講師をお願いした高木ヤスオさんは、1960年(昭和35年)応用化学科を卒業後、ながらく味の素(株)に勤務されました。専門は、食品の開発&品質保証です。
高木さんは昨年体調を崩された(脳梗塞及び肺炎で緊急入院、ICUから蘇生)のですが、最近はセミナーや総会に出席いただけるように御元気になられましたので、皆さん関心の高い”食の話”をお聞かせ願うことにしました。
お話は、会員・学生会員ばかりでなく、会員の奥様・ご家族にも参加いただけるように、セミナー時間帯を昼にして、セミナー後の懇親会は同じフロアーの精養軒でランチをいただきながら話を続けられるような設定にしました。
takagi logo
【講師(高木 ヤスオ 氏)プロフィール】
*岐阜県多治見市出身。 1936年生 81歳
*愛知県立明和高校卒業・東京工業大学応用化学(高分子)卒業。
*味の素㈱・クノール食品㈱:ポリアミノ酸繊維・樹脂/各種食材及び食品の研究開発、商品開発、事業化、品質管理・保証等
*寿がきや食品㈱:各種麺類の研究開発、商品開発、品質管理・保証等
*個人コンサルタント:品質ISO9000・環境ISO14000の構築支援等
*アファス認証センター㈱(農林水産省認可の有機食品登録認定機関):検査員・役員
高木さん顔写真
講師の高木さん
★会員;International Foods Technologist
★会員;Japan Organic Inspector Association
★会員;日本スペイン協会“DON QUIJOTE”Club
★会員;“蔵前理科教室 不思議ふしぎ”(小学生を理科好きにする活動)
【私は何処からきたのか 私は何者か 私は何処へ行くのか】
ゴーギャンの絵
「我々は何処から来たか、我々は何者か、我々は何処に行くのか」ゴーギャン
<私は何処からきたのか>
・私は周囲の人々から支えられ、光を照射され、認知されて存在している。
親・兄弟姉妹・親戚/小中高の学友
大学では部活動(バスケ)・研究室(神原研)の同僚・諸先輩による指導。
社会人時代には、社内の有能な人々との知己を得て多領域の知見を習得。
関係会社・取引先会社・特に外国企業とのジョイントベンチャー等での多くの人々との共同活動により多様な価値観の重要性を認識。
ふれあい英会話サロン・くらりか・ドン・キホーテクラブ、ORGANIC推進団体等の異領域の人々との交流で広範な知見・教養の向上。
・皆さんに見つめられ、その焦点に《高木ヤスオ》像が結ばれて下記の様に認知されている様子である。
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<私は何者か>
“高木ヤスオ”;広範囲の食品係る実務経験・知見・知人の豊富な雑学者
FOOD CONSULTANT
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<私は何処へ行くのか⇒私は何をすべきか(このセミナーの動機)
・私を作ってくれた人々へ、今まで得たものをお返しして行く・影響を残してゆく事。
・情報の洪水(特に食品・健康)の中で、間違いが生じないように、最新の確かな情報を提供する事。
セミナー冒頭の写真
【講演の構成】
自己紹介、なんでこのテーマでお話ししようと考えたのかという説明があり、“知っていましたか? シリーズ”の各論がスタートした。構成は以下の4テーマ。
横山顔写真
司会進行は横山功一幹事
“知っていましたか? シリーズ”
“シリーズ00” 食べる”の基礎知識
“シリーズ01” (1)ユネスコ世界文化遺産
(2)和食とは
“シリーズ02”  (1)「健康食品」とは、
(2) “健康な食事”を目指して
“シリーズXX” 今後のテーマ案
【“知っていましたか? シリーズ00” 食べる”の基礎知識】
この部分は、食の基本に係る(1)生物、(2)代謝、(3)食品の機能・栄養・嗜好などの紹介であったが、講演時間の関係からスライドを送りながら簡単な説明があった。
セミナー 前
左から高木(講師)、前田恭男、山本さん
【“知っていましたか? シリーズ01” (1)ユネスコ世界文化遺産、(2)和食とは】
<(1)ユネスコ世界文化遺産>
ユネスコの無形文化遺産に、日本から申請した『食文化「和食;日本人の伝統的な食文化」 正月を例として』が、2013年12月に登録された。食文化では、他に『フランス人の美食術』2010年登録、『地中海の食事法』2010年登録//2013年追加登録、『キムチを作り分かち合う、韓国のキムジャン』2013年登録などがある。
登録に際して提出された提案書には、
『「和食」は食の生産から加工、準備及び商品に至るまでの技能や知識、実践や伝統に関わる包括的な社会習慣である。「和食」は生活の一部として、また年中行事とも関連して発展し、人と自然的・社会的環境の関係性の変化に応じて常に再構築されてきた。正月は代々受け継がれてきた日本の伝統がアイデンティティや継承感を再認識させるものであり、「和食」に関する基本的は知識や社会的・文化的特徴が典型的に見られる。』
と謳われている。
<(2)和食とは>
和食の基本は「主食の米飯」と「一汁三菜のおかず」の組み合わせで、おかずの素材は「旬の魚と野菜」。季節が巧みに活かされ、伝統的に油脂は多用せず、「だし」と万能調味料「醤油」で調味される特徴がある。(雑誌「VESTA」94号、2014.04.10、高田公理『和食の輪郭を描く』より)
日本文化としての和食をみると、(1)自然の尊重から「和食」が始まった。(2)寄り合いが人をつなぐ、行事や祭りの食の役割。(3)ハレの日の食事で、健康と長寿を願う。(4)風土が多様性を生み、それが「和食」の多様性を生み出した。といえる。(『和食 日本人の伝統的な食文化』(農林水産省パンフレット)より抜粋)
一方で、最近では図-1「和食文化の四面体」に示されるように、和食文化の良い点が損なわれてきている点が心配される。
食の四面体
図-1 和食文化の四面体(農水省「『和食』日本人の伝統的な食文化」に加筆)
和食の成り立ち・歴史を振り返ってみると、それぞれの時代の移り変わりを反映して和食が今の形になってきているのが分かる。
特に大きな変化を列挙すると、奈良時代に仏教が伝来し、鎌倉時代に禅宗が伝来して僧侶料理として“精進料理”が編み出され、特徴的な料理法(植物食材を用いて調理・調味で動物食品を再現)が発展し、《だし》が完成する。
江戸時代になると、市民社会が発展し、商業が隆盛をみて、商人の“会席料理”、庶民の外食(屋台・煮売・料理屋・茶店等⇒“すし”・“そば”等)が発達し、多様な料理・調理技術が生み出され、米を主食とする“一汁三菜の食文化が完成した。
明治維新後には、文明開化・富国強兵の政策で“西洋風料理”(畜肉・乳製品食材の使用・奨励)が取り入れられ、宮廷公式料理もフランス料理が採用されるようになった。
その後、敗戦により、アメリカ・西洋文化崇拝の様相を呈して、“ハンバーガー”、“パスタ”、“ピザ”等に人気が集まってきている。
しかし最近では、爛熟社会・飽食社会とも云われる中で、生活習慣への反省から“いわゆる健康食品”、“特保等の健康食品”等に関心が高まり、日本古来の文化である“和食”の良さが再認識される(日本食の健康的価値等再評価等)ようになってきている。
ところで、果たして和食は“健康な食事”なのであろうか? 1975(昭和50)年当時の日本食、すなわち<和食中心+洋食少々>、が脳に最良な食事であり、一週間でバランスが取れるように、色々なおかずを食べるのがよいとのことである(東北大学都築毅准教授)
写真 講演風景右
セミナーの一コマ(左から山本、小関夫人、福島、酒井、青田、岩上さん)
【“知っていましたか? シリーズ02”  (1)「健康食品」とは、(2) “健康な食事”を目指して】
<(1)「健康食品」とは>
 それでは、健康食品とはどんなものか?食べるものは、図-2に示されるように、食品等と医薬品等に分かれる。食品等の中に、一般食品と保健機能食品が含まれる。保健機能食品は、次の図-3に詳しく示されているが、特定保健用食品(いわゆる特保)、栄養機能食品、機能性表示食品があり、含まれる対象成分、あるいは機能性の表示については、法律で細かく規定されている。
図-2
図-2 食品と医薬品
図-3
図-3 保健機能食品
 今話題の健康食品は、一般食品に含まれる。国としても法(健康増進法や食育基本法)に基づいて、国民の健康増進の基本となる食生活・休養・運動への理解、そして健全な食生活の実現への働きかけを行ってきている。私たちの健康意識への高まりから、いろいろな健康食品が流通しているが、注意点に気をつけるように呼びかけを行っている。
<(2) “健康な食事”を目指して>
 “健康な食事”とは、定義の上では、健康上の理由で日常生活が制限されることなく、快適な生活ができる期間を長く続けることが出来る食事であって、年齢によって異なる。若い時には生活習慣病の予防に注意しなければならないが、高齢者では介護予防が中心となる。
図-5
図-5 年齢と健康的な食事
地中海の食事法のポイント
ユネスコの無形文化遺産に登録された「地中海の食事法」は健康に良い優れた食事法と言われる。そのポイントは以下の通り。
《地中海諸国の食生活指針》
1.季節の野菜と果物、また穀物など植物性食品を豊富に撮る。
2.主たる脂肪源として、オリーブオイルを日常的に使う。低脂肪の乳製品(チーズ・ヨーグルト等)は、毎日適量を摂取する。
3.魚介類を習慣的に摂取する。
4.獣肉の摂取は少量にとどめる。
5.食事中に適量(グラス1~2杯)のワインを飲む。追加(高木):食事を楽しみましょう。
6.日々の身体活動(Daily Physical Activity)を欠かさない。
一方、アメリカでは、従来農務省が提唱していたのは健康な食事のための食品ピラミッドでしたが、最近図に示すようなmyplateに変更された。ここでは、健康的な食事に必要な5種類の食品群とその割合を一つのお皿に示している。それぞれの群をクリックすると、具体的な食品の説明が示される。
【“知っていましたか? シリーズXX” 今後のテーマ案】
今回、《知っていましたか?》シリーズの3テーマについてお話しいただいたが、今後要望があれば、ボランティアとして下記のようなテーマで話が可能。
01.美味しさとは、食欲とは
02.常在菌・腸内細菌、(あなたの体は9割が細菌)とは
03.発酵・腐敗とは
04.調理のコツ・料理の科学とは
05.体質とは
06.検査数値の読み方、その対応策とは
07.時間栄養学(何時食べるかなど)とは、//睡眠の役割とは
08.寿命とは
09.旬とは、旬の食材(季語など)とは
10.生薬・漢方薬・薬膳料理とは
11.文学と食文化
12.絵画と食文化
13.宗教と食文化
14.その他
講演風景左
セミナーの一コマ(左から星野、関口、岡安、前田豊さん)
【質疑応答】
【Q1】日本と欧米人では体質に違いがあると言われたが、具体的にはどう違うのか?
【A1】ヒトのゲノム解析結果で、遺伝子情報に欧米人と日本人では違いがあることが分かってきた。地球上には、7~8種類のホモサピエンスがいると言われている。そして、住んでいる環境変化の影響も受けている。
具体的には、日本人でお酒が弱いあるいはまったく飲めない人がいるが、欧米人はだいたいが強い。アルコールを分解する酵素が2種類あり、欧米人は2種類持っていることが多いが、モンゴロイド系は0~1が多い。 それと、牛乳を飲んでお腹がごろごろすることがあるが、乳糖に関係していて、欧米人はそんなことはない。また、黒人は皮膚の色がメラニン色素で黒いが、北欧人は紫外線が弱いので白い。だから、ニュージランド、オーストラリアに移住した白人は紫外線に弱く、原住民のアボリジニに比べて皮膚がんなどが問題になっている。
 食品・薬品の効果も、日本人と欧米人とでは違いがあるので、注意。
【Q2】地中海ダイエットではオリーブオイルが挙がっているが、日本料理でよく用いられるのはサラダオイルで、大豆から作られる。なぜ、オリーブオイルが選ばれるのか?
【A2油は必要。エネルギー源になるし、細胞膜も作る。油の種類には、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、魚から摂れるオメガ3などいろいろある。それぞれ機能が異なるので、植物性・動物性油、バランスよく摂取するのが良い。
【セミナーの後で高木さんから送られた補足情報】
なぜ、オリーブオイルが推奨されるのか? 地中海食の地域の人々にがん等の疾病が少ない事由の一つとしてオリーブオイルではないかという仮説が挙げられたことによるものです。あくまでも相関関係があるという事で、因果関係は明確に解明されていません。
赤ワインが心臓疾患に予防効果があるのではないかと盛んに一時推奨されました。今は廃れました。
オリーブオイルは、ω9(n9)不飽和脂肪酸オレイン酸を多く含む油です。一般的に不飽和脂肪酸は酸化に弱いのですが、オリーブオイルは比較的に酸化に強いので調理に向くとされています。酸化されたあぶらは有害物質ですので、避けるべき物です。
 又、果実から絞られただけの油であり、フレッシュであり、生食に向いていると言えます。健康効果として科学的に確認されているのは便秘の解消には有効であるという事です。 悪いものではありませんが、過剰摂取は禁物です。
体内で作られないので、食事か摂取しなければならない“必須脂肪酸”は、ω-6脂肪酸のリノール酸とω-3のαリノレン酸です。
ω3にはDHA、EPA等も含まれているようです。2017版に「日本人の食事摂取基準」で
ω3の摂取基準は50才~69才の男性で2.4g/dayです。
ω6の摂取基準は50才~69才の男性で約10g/dayです。
あぶらの過剰摂取に気を付けて、バランスの取れた食事が望まれます。必須のものではありませんので、悪いものではありませんが、こればかりを使うのは考え物です。ご注意を!!!
 当日は油脂関連の資料を持っていなかったので不確かな情報を流さないように説明してしまいました。
一コマ 中央
左から岩上、鹿子木、星野さん
【Q3】先ほどの質問に関連した質問です。家内の作る食事は、日本食で、油が少ないように感じる。脳の働きなどに、油不足の影響が出るのではないか?
【A3】昔、小学生の時に、肝油を飲まされましたね。最近では英国で、視力が上がると言って飲むようにしているようです。脂質は細胞膜を作るのに役立つ。つまり、新陳代謝、細胞を作りかえるのに使われる。日本食でも油を薦めている。
【Q4】健康食品に関してのお話を受けて、1日分の野菜が摂れる、と謳う野菜ジュースが販売されているが、実際効果としてはどの程度期待できるのか。
【A4】何も摂らないよりはまし、という程度の理解が賢明である。まずジュースにしてしまう時点で食物繊維の摂取はできない。本来、咀嚼し体内で分解しながら栄養を吸収していくのに対して、一気に摂取する野菜ジュースでも全く同じような栄養摂取を期待することは難しい。
【Q5】“小麦がだめだ、良くない”と言っているひとがいる。パンやうどん、そしてそばにも入っている。そのために小麦粉の代わりに米粉を使うパンなどがある。小麦にはグルテンが入っているせいだということですが、どう考えますか?
【A5】テニスのジョコビッチ選手やテレビに出ている有名な女優が話題になっていますね。グルテンがアレルギーを起こすということで、欧米人に多いようですが、アメリカではグルテンフリーが流行っているようだ。これにも、日本人と欧米人との体質的な違いがあるようだ。
 食べ物をいうのは何らかの副作用は大なり小なりあるものなので注意が必要。特に学校給食ではアレルギー体質を持っている生徒が増えていて、アナフィラキシーショックが大きな問題になるので、細心の注意を払っている。
【懇親会】
1時間半のセミナーが終わり、会場を片付けて、同じフロアーの精養軒http://www.seiyoken.co.jp/c/index.php/archives/shop/294に移動し、ランチを食べながら質疑や意見交換を継続することにした。今回は、一つの長テーブルに全員が着席したので、会話は席の近い方に限られた。
懇親会(1)
一番奥にテーブルを用意してもらった。
懇親会(2)
左から小関夫人、前田豊さん、青田さん、岩上さん、星野さん、岡安さん
懇親会(3)
右から鹿子木さん、高木さん、関口さん、前田靖男さん、福島さん
第8回セミナー(2017/9/13)
高木ヤスオ講師
高木ヤスオ講師
講師:高木ヤスオ氏(1960年応化卒)
大人の食育
-知っていましたか-
第8回セミナー報告(本ページ)
本セミナー担当
企画とりまとめ:横山功一氏
全体企画・ホームページ作成:横山功一氏